学園長対談

清和幼稚園学園長 山中悠紀子さん×ほにや社長 泉真弓さん
山中さんと泉さん

日々子どもたちと触れ合い、見守りながら成長の一助を担う幼稚園の学園長と、雑貨販売から始まり、よさこい衣装制作からプロデュース、カフェ運営と日々進化を続ける高知を代表するほにやの社長泉さん。
それぞれ違う業種ですが、高知を拠点に活動する女性トップならではの視点からいろいろ語っていただきました。

名称は以下(山中・泉)

対談写真1
山中さんは富山県のご出身とお伺いしましが、高知に来られたきっかけは?
山中
仕事の関係で高知出身の主人と出会いまして、富山から高知に嫁いできました。結婚後、主人の父が理事長をしていた幼稚園で働くことになりました。中高の教員免許は持っていたのですが、幼稚園教員の免許は子育てしながら通信教育で取りました。保育士の資格は保育士試験を受けて取りました。大学では心理学を専攻していましたので、そこで学んだことが基礎になっていて、今の幼児教育にもつながっています。
清和幼稚園さんならでは取り組みというと?
山中
基本的な生活習慣を身につけさせるのはもちろんですが、日本の伝統的な作法などにも取り組んでいます。人はやり直しをすることの方が大変なので、最初から本物で指導してあげたいですね。例えば、”立腰”では、背筋をピンと伸ばす姿勢と目線の置き方もきちんと教えています。立腰というのは、武道やお茶席の座り方と多分同じなんじゃないかな思いますが、すごく合理的で立ちやすく、座る時も自然にスッと座れ、姿も美しいんです。幼稚園は3歳から始まりますが、最初はなかなか正座できないお子さんもいます。認定こども園になったので、今は2歳から少しずつ始めて、結局3〜4年かけて10分とか15分は正座でいられるようになっていっています。
最近は正座ができない子どもが多いですね。
山中
そうですね。私は明治生まれの祖母と大正生まれの母に育てられたので、昔風にきっちり仕込まれていたようです。まず、人に会ったら必ず挨拶。挨拶しないというのは相手を無視することになって、大事な人間関係が壊れかねないですし、笑顔で挨拶されると相手も気持ちがいいというわけです。小学校の頃、外から帰ってくると、祖母が玄関の間まで迎えに出てくれて正座して待っているんです。そこで、おばあちゃんの顔を見ると、「あっ、ちゃんと靴を揃えないといけない!」と反射的思ったんですね。決して口うるさくはなかったんですが、そんな風にしていろんなことを、時間をかけて抜からないよう身につけさせてくれていたんです。そんな躾を受けていた時代もあったのに、今は見る影もなくなっていますよね。だから、家庭と一番近い集団生活の場を預かっている私たちが意識をそういう風に持っていないと。小さい頃って意外と力があって、きちんと繰り返し教えてあげると、ちゃんと身に付け育っていくんです。幼稚園で、一生の基本を丁寧に教えて本物が身につくと、必要な時に必要なことを考えなくても自然にできるようになるんだと思います。
対談写真2
親御さんにはどんなお話しをされていますか?
山中
園で集団生活をしていると、子どもたちがケンカをすることもあります。ケンカはとても大事な経験だと考えていますので、入園説明会や入園式でも説明させてもらっています。ケンカは人の気持ちが実感としてわかる大事な機会ですから避けて通るべきではないと思っています。勿論、怪我するようなケンカはとめますけれど。叩かれたらどんなに痛くてどんな気持ちになるかは、叩かれて初めて分かるものだと思います。大抵の場合子どもにはそれ程の悪意はなくて、視野が狭かったり感情のコントロールが上手くできなかったり言いたいことが上手く言えなかったりして手が出てしまうということなので。「いつもあの子に叩かれるから、あの子は意地悪な子だ」と決めつけないでくださいと。
何年か前から親の感じがすごく変わってきたように思います。うちのよさこいのチームはだいたい小学1年生ぐらいから参加していますが、親が練習にも毎日ついてきて。さきほど学園長もおっしゃっていたように、子どものケンカにも口出すんですよね。「それはやめてください」と言わせてもらうんですけど。過保護というか、親がすぐ手を差し伸べるから、子どもたちが一人で生きていく力が弱くなっているのかもしれないですね。
山中
交通事故やいろんな事件が起きたりして、今は常に大人が見てないといけない時代になってしまっていますね。昔の私たちなんかは勝手に道路で遊んでましたけれど。夕ご飯の時間はどこの家もだいたい午後6時頃って決まっていましたので、5時半位になったらみんなもうそろそろ帰らないといけないねって。子どももわきまえていて、いろんなことを自分たちでやっていたんですよね。
対談写真3
今の子は本気でぶつかるのが嫌なのかもしれません。
山中
負けるとか、叱られるとか、できない自分を指摘されるのが嫌なんですよね。でも本気でやらないと伸びないんですよね。
ちょっと怒られるだけで、もうすぐ折れてしまうっていうところが最近の若い人にはありますね。きちんといい方向になるように、こうした方がいいと言うんですけど。
山中
自分が考えを持って何かをやる時は、腹据えてしっかりやらないといけませんね。批判されて嬉しい人はいないと思うんですけど、人からの批判に耐えられないようなら、自分が何を根拠にやろうとしているのか、やろうとしていることがほんとにいいのか、もう一度考えたほうがいいですよね。
ほんとに覚悟が決まってないとやっぱりいい仕事もできません。ちゃんと覚悟ができていれば、一緒に手伝おうと思う人もでてきますしね。よさこいも、手弁当で来てくれる人がいないとできないんです。そこで、ギャラがあるなら手伝うっていうような気持ちだと祭りはダメなんですよ。地域を良くしようとか、みんなで盛り上げようっていう活動はお金じゃない熱い気持ちがないとできないし、続かないですね。それには、やっぱりいろんな方がいて初めてできることだと思います。
山中
そういう方がまわりにたくさんいらっしゃったから、よさこいも今のように全国に広げていけるほどの発信力が持てたんじゃないですか。
7年目くらいまではうちも小さいチームだったので、見る方も出る方も、ただ”楽しい”だけで終わってたので、何か物足りなくて。もっと格好よく高知の人たちの感性で表現できる形に進化させてきました。手弁当で来てくれる人たちが「ほにやを手伝ってよかった」と思ってもらえて、ここに関わる踊り子さんやスタッフが誇りを持てるチームにしたかったんです。
山中
園も一緒です。(職員にも)「この仕事をしてよかった」って思ってもらいたいですし、保護者の方にも「この園へ預けてよかった」と思ってもらいたいですね。子どもたちが大人になった時にも、「幼稚園は楽しかったなあと思い出してもらえたら、この園での教育はいい教育だったということになるのかなと思っていまして。子どもたちが、学ぶことを「楽しいな」とか「おもしろいなあ」って感じることができる保育の在り方を常に考えています。興味を持ったものや楽しいなと思うことは、自然に続けられるからです。しっかり身に付けるためには継続力というものは絶対必要ですね。人間は能力が高いので、幼稚園で取り組んでいることのほとんどは、大抵の人ができるようになるものばかりだと思っていますが、運動遊びなどもすぐできるようになる人もあれば1000回して初めてできるようになる人もいます。本当はもうちょっと頑張ったらできるようになるものも、そこで止めたら一生できないままで終わってしまうことになりますよね。そういうことがきっといっぱいあるんだと思います。ですから、くじけそうになっている時には、「諦めずによく頑張っているね!」と見守っていることを知らせたり、さりげなく気持ちを立て直せるような関わりをしたりしています。結果も大事ですが、プロセスもすごく大事。なかなかできなくて、悔しい思いをしたり、泣いたり、考えたり、人の姿を見たり、教えてもらったりなどといったプロセスでの経験が、人を育てていくんじゃないかなって思うんです。そこを、もうちょっと保護者の方にもわかってもらうようにしたいと思っています。
対談写真4
山中さんのお話しをお聞きしていると、私もここ(清和幼稚園)からやり直したいなと思ってきます。
山中
幼児期は記憶力も抜群にいいので、楽しいなあと思うとどんどん頭に入ります。園では、”いろはカルタ”を取り入れていますが、3学期の1月の半ば過ぎから始めて、3学期が終わった頃には、子どもたちはカルタのことわざをみんな覚えていてびっくりしました。古典の勉強として出会ったら義務になって面白くもないかもしれませんが、“犬も歩けば棒に当たる”“花よりだんご”などといった言葉の持つリズムを楽しむ遊びとなると楽しいものになると思うんです。時代は変わっても、子どもの心自体はそう変わらないと思いますから。そういう経験が自然な形で古典文化への入口を開けることにもなると思うんです。
英語なんかはどうですか?
山中
言葉はものを考えたり、自分の考えや思いを他人に伝えたり、学習したりするためには絶対必要なものです。ですから日本語をきちんと身に付け、使いこなせるようになるための取り組みはとても大切だと考えています。
また、グローバル化が進んだ今日では、旅行するにも仕事の上でも英語は大きな役割を果たす言語になってきています。段々に低学年からの導入が進んできてはいますが、日本語にない音韻が含まれる英語も、その音韻を聞き取ることや発音を真似るのが容易にできるこの時期から触れることには意義があると思っています。だから、「英語って楽しいな!」って感じてもらいながら、将来の可能性を広げてあげたいと思っています。日本語の主要な書き文字である漢字を、子どもたちの目に自然に触れるように環境の中に出しているのも、将来の学習がスムースに進む手立てになるとを考えているからです。 新しいことができるようになるとか、知らなかったことを知るということは、本来楽しいことだと思います。半ば義務でというのではなく、いろんなことを自分がやりたくてして、しかも楽しく身に付けていくことができる方法はあるはずなんです。もっと他の分野でもそんな方法を考え、広げていきたいなと考えています。幼稚園で覚えたかどうかは記憶に残らなくても、「なぜか知らないけど自分はちゃんとできるとか、「いつ覚えたのかは分からないけれどそのことは知っているよ。分かるよ。」とかというものが多ければ多いほど、苦は少なくなるでしょうから。
必要なことをそんな風にして身に付けていけれるように手伝ってあげるのが私たちの仕事だと思っています。そして、子どもたちに人生を豊かに生きていって欲しいというのが私たちの願いです。
対談写真5

場所:K's cafe 帯屋町二丁目店